「ギックリ腰と脳」

・・概要・・


一、強烈な痛みは神経由来・・脳の過剰反応によって起こるが、痛みに見合うほど重篤なケースは少ない。

二、骨を損傷したと誤解し易いが・・筋肉に於ける捻挫のようなもので、安静にして時間が経てば一応それなりには治る。

三、
初期治療が肝心・・先ずは徹底して患部を氷で冷やし、痛みを感じなくなったら正しい姿勢でゆっくり歩行し、痛みを
           感じたら再び冷やして更に歩く事を繰り返す。

四、
重度の場合は・・ペインクリニックで神経ブロック注射をしてもらうが、「ヤッタッ」と思ったら病院に直行で受診し
          なければ、時間の経過と共に身動きが取れなくなる。

五、
発症を繰り返す・・徹底的に治して置く事が肝要で痛みが和らいだからといって、途中で治療放棄してしまうのは膿の
           芯を残すのと同じで、 条件が揃えば何時でも再発する。

六、
腰部筋肉を凝らせないで柔軟にしておく事が予防となる・・その為には常に腹筋を意識して行動する事が大事。

七、
腹筋の弱体化が事の発端・・それによって骨格が正しい姿勢を維持できず、徐々に腰部筋肉に負担が掛かって凝り
               固まり、そこに不測の突発的捻りが加わって起こる。

八、
腰痛を侮ってはならない・・根本的治療を怠る事によって慢性化し持病となるが、加齢による筋肉萎縮によって、深刻な
              生活の質の低下を招く。

九、
知ることは最大の防御・・人体は、腰痛の仕組みを熟知する事によって、無意識に脊椎を護る。

十、
腰痛は万病の呼び水・・骨格の歪みを招き、筋肉の痛みを起こし、精神を萎縮へと誘い、内臓疾患へと進む。


・・はじめに・・


 総ての事象に当て嵌まるのであろうが、何事も実際に体験しなければ分からないことは多い。中でもギックリ腰の痛み
は正に経験した者にしか解からない。体位を変える度に襲う痛みに病院に行くこともままならず、首尾よく病院に辿り着
いても、「やっちゃいましたか」と鼻で笑われるのが関の山、顔面蒼白で冷や汗を流しながら痛みに耐える患者をよそに、
「安静に寝ておけば一週間くらいで治ります」と笑いながらのたまう医者も珍しくは無いが、実際にそれで痛みが治まる
から始末が悪い。

 ギックリ腰を含め、高齢者と呼ばれる年代まで生きて腰痛と無縁の一生を過ごす人間はおそらく皆無ではないかと思わ
れる程に、それは身近にある。ゆえに、腰痛を人間が二足歩行を習慣としたことによる宿命であると定義する向きもある
が、人間の肉体は既に二足歩行に適応するように形成されており、腰痛の原因を二足歩行に導くのは少しばかり短絡過ぎ
るきらいがある。

 整形外科、整体院、鍼灸、カイロプラクティックなど骨と筋肉に纏わる機関は幾多あるが、腰痛持ちほどこれらを梯子
する患者はない。これは、何処に行っても本人の思うようにスッキリと完治しないこともあるが、腰痛患者の性格に由来
するという特徴も見逃せない。多くの腰痛患者は自分で積極的に治そうと努力するよりも、評判を頼ってそれらを渡り歩
く傾向があり、何処に行っても大差は無いとなれば、「そのうち治る」とか「仕方が無い」と治療を放棄することも少な
くない。

 しかし、大した緊迫感も持たず慢性的腰痛と騙し騙し馴染んでいるうちに、椎間板ヘルニアや脊柱菅狭窄による神経圧
迫障害で下肢のしびれや失禁を伴う事態に至る事や、泌尿器や消化器や腎臓・肝臓などの内臓疾患、骨粗しょう症などの
原因が隠されていることもある。たかが腰痛と安易に時間を過ごすと取り返しのつかない事態にも成りかねず、腰痛が整
骨やマッサージで及ばないので病院で受診したら子宮がんが見つかったと云う事もよくある話。

 逆説的に診て諸病の原因を腰痛に辿るのは我田引水が過ぎるとしても、ギックリ腰経験者の多くが再発を経験し、腰が
弱いと認識しながら生活している現実は、いずれ加齢を時限装置にした爆弾が破裂することを示唆しているという現実も
併せて認識すべきである。


・・ギックリ腰・・


 一般的に認知されているギックリ腰とは、慢性的に凝り固まっていた腰部付近の筋肉が、突発的負荷によって損傷した
もので、慢性的に凝って硬くなっていた筋肉の捻挫の如きものであるが、患者が思い込む程に重篤なケースは殆ど無い。
しかし、ギックリ腰にまつわる痛みは生半可ではなく、動作の度に起こる激痛に腰椎か腰骨を損傷したのではないかとの
不安感を抱えることも少なくない。この激痛は、脳から送られてくる神経信号によって筋肉を動かしている運動系神経線
繊付近の筋肉ダメージが、痛覚、温度覚、触覚を司る知覚専用の知覚系神経線維によってダイレクトに脳に伝えられる事
によって起こるのであり、実際の損傷度合いに全く見合わない大げさなものである。

 本来、ギックリ腰と呼ばれる一連の症状は、筋肉痛と神経痛の合併病と捉えるべきであるが、その比重は限りなく神経
に重く、時間の経過に頼って筋肉の治療に専念する感のある現状の治療形態は、少なからず的がずれていると言わざるを
得ない。

 人体の生命線である脳に繋がる神経中枢器官を内蔵した脊椎は、その支を腰部周辺筋肉に依存しており、それらの筋肉
の損傷は、そのまま人体の存亡を脅かせる脅威となる。張り巡らされた知覚神経によって瞬時にそれを察知した脳は、そ
れ以上の被害拡大を阻止する為と患部を護る為に、動く事に対する警告として過剰な痛みを知覚させるのである。腰骨周
辺筋肉の損傷によって生じた筋肉の硬直による神経の圧迫と、その痛みに対する脳の過剰反応が、更に周辺筋肉をもをも
硬直させる事によって筋肉運動を制限することが原因であり、速やかに患部の硬直を解いて神経を圧迫から開放する事が、
ギックリ腰治療のポイントである。

 ギックリ腰の治癒は、発症時に如何に的確に治療をするかに掛かっており、その機を逃して一昼夜を経過観察に充てて
しまうと、朝の寝起きに激痛に襲われてギックリ腰症状の完成を見る。この時点でも的確な処置が取れれば全く問題は無い
が、姿勢の変化が激痛を招くとあって、動くこともままならない状態に置かれているだけに治療施設に到達するのは困難
を極め、症状が和らぐまで自宅待機を余儀なくされるのが常である。あわよく治療施設に転がり込んでも、ほっとけば治
るという基本理念を持つ施設でおためごかし程度の治療を施されて経過観察を決め込まれるのが関の山である。

 ギックリ腰治療の手始めは、迅速に筋肉による圧迫から神経を解放し、人間本来の正しい姿勢に、一刻も早く戻す事に
専念すべきであり、これは一刻も早く元の状態に戻すことが原則となる脱臼などの処置と同様である。確かに、ギックリ
腰は安静に因る時間の経過によっても症状は自然に治まっていくが、長い時間に亘って痛みに晒された患部の筋肉には、
痛みの記憶がトラウマとして残り続ける。喉元過ぎれば熱さを忘れるのが人間の常ではあるが、時間の経過によって顕在
意識で忘れられた後も、徐々に蓄積された周辺筋肉の緊張が周期地震のようにギックリ腰の機会を窺い続け、これによっ
て腰痛の慢性化や再発が起こり、加齢と共に腰痛が持病化していくのでる。

 治療のポイントは、飽くまでも脳が感じる痛みをブロックする事で、一刻も早く痛みを取り去る事に尽きる。先ず、患
部を姿勢の変化によっても痛みを感じない程に冷やすか、状況によっては神経ブロック注射によって、神経から脳に伝わ
る痛みを遮断した上で、本来の姿勢に矯正して、コルセットでその姿勢を強制的にキープさせ、場合によっては痛み止め
の薬を処方してもらう。全くの初期状態にこの処置を施し、患者が適正な筋肉の動きに常に留意して生活するのであれば、
その日から日常生活に殆ど支障が出ない程の回復をみる事が出来、個人差と症状の程度にもよるが三日も経過すれば、鎮
痛剤もコルセットも必要とはしなくなる。

 ギックリ腰の治療で留意すべきは、腰痛が時間の経過と共に、周辺筋肉が庇い合うことによって複雑化し、雪崩やドミ
ノ倒しのような症候群状態に陥るところであり、発症患部が治癒した後も、患部の筋肉を庇っていた周辺筋肉の凝りによ
って、新たな腰痛が迷走するかのように引き起こされるという悪循環に至る。痛みに耐えた分だけ、根本的治癒も長引く
のがギックリ腰病の特徴である。

 ギックリ腰の発症時は姿勢を変える度に起こる激しい痛みに打ちのめされ、恐怖感や弱気意識に支配されて精神的に疲
弊してしまうが、少しばかり症状が和らげば独自に判断で治療を中断したり放棄する事がしばしばあるが、これが腰痛を
慢性化させたり再発させる要因となっている。ギックリ腰の症状は消えてもその火種までは消えていない事を肝に銘じる
べきである。

 人間は、痛みに耐える手段としてしばしば体を丸めて眠るが、ギックリ腰の場合は此れが裏目に出てしまう。布団の中
で猫のように丸まって痛みを凌いでいる間は問題ないが、寝起きにこの状態から起きて歩こうとする時に本格的ギックリ
腰の痛みが起こる。ギックリ腰の痛みは、四足の動物に先祖帰りするかのように丸まったままで膠着したがる筋肉と、二
本歩行に戻ろうとする筋肉の戦いの過程によって起こるのであり、腰の曲がった老人のような姿勢で生活出来るのであれ
ば、腰痛の痛みに対する脳の反応も少しは違ったものになる。

・・腰痛と姿勢・・

 人間の躯体はバランス連動器であり、一箇所の不都合は必ず他にしわ寄せされ、そのしわ寄せは時間を頼って全身に関
わっていく。正しい姿勢で生活する事は、二足でバランスをとって生活する人間が故障しないことの約束事であり、悪い
姿勢はいびつな筋肉を形成し、いびつな筋肉は骨の歪みを促進する。更に骨の歪みは行動を制限し、それによって運動不
足と云う悪循環が起こり、更にその悪循環は内臓疾患へと飛び火する。

 人間の骨格は前方に惰性が働くように設計されており、静止しているようりも歩くほうが安定し、走るほうが更に安定
する仕組みになっているが、その為には付随する筋肉が適切に稼動すると云う前提がなくてはならない。しかし、日常生
活に於いては加齢と共に走ると云う行為が減少し、歩行と静止の範囲でしか活動をしなくなる為に多少の骨の歪みや筋肉
の衰えがあっても大して不自由を感じることは無く、腰部に過剰な負荷が掛かる行動を起さない限り易々と腰痛が起こる
事は無い。

 人体の中でも五個の腰椎からなる腰部は非常に不安定な形状であるが、この不安定さが如何に運動の要となっているか
は、その部分を損傷することによって嫌と云うほど思い知ることになる。人体は二百六個の骨と六百以上の筋肉によって
成り立っているが、二足歩行は頭蓋骨を支える七個の頸椎と十二個の胸椎と五個の腰椎、それを支える五個の椎骨がくっ
付いた仙骨や左右の腸骨と坐骨や恥骨、更にそれを支える大腿骨と脛骨からなる脚部と足部の連動によって維持されてお
り、腰部の損傷はこれらの連動の停止を意味する。

 胸椎が抱える内臓は胸骨と肋骨にガードされているが腰椎と仙骨が抱えている内臓の支えは筋肉に依存されており、中
でも外腹斜筋と腹直筋の働きは最重要で、この筋肉の衰えを無視して前屈姿勢で重稼動すれば即腰痛となるのは必至で
ある。腹筋は腰椎の支柱であり、傾いた家のつっかえ棒の役割をしているのが腹筋と云うことである。ことに前屈姿勢が
定番の農作業など腹筋の支柱なくして出来るものではない。うつ伏せで長時間の読者や、反身で歩いたり、下手なハイヒ
ールの履き方は腰椎に負担が掛かるし、太った人が太鼓腹を突き出してのし歩くのは問題外である。

 腰部筋肉は健全で柔軟な状態を保ってさえいれば、通常の運動範囲で損傷する事は無いが、筋肉量の減少や慢性的凝り
によって柔軟性を欠いて来ると、自ずと運動可動域が制限される。そこへ脳に想定外の負荷が加われば、些細な動作であ
っても反応が遅れて対応が間に合わずに腰部筋肉に損傷が起こるのであり、これがギックリ腰と呼ばれるもので、これは
条件が揃えばコップを持って立ち上がってもクシャミをしても起こる。

 多くの腰痛は筋肉の衰えが目立ち始まる四十歳過ぎから出始めるが、その根底には腹筋の衰えと共に蓄積した姿勢の悪
さがあり、常に下腹を引っ込め、気海丹田に力を込めて日常生活を送っていれば健康にもよく腹筋も維持出来、自然に姿
勢もよくなり腰痛とは無縁の生活が待っている。

 






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